切絵の苦労 再び

Wrote by Roki 1998 in US

1998年、路鬼はアメリカにいました。メイン州という「ど」田舎の州です。
紙のことも、絵の事もあまり知らずに、知らない土地でとってもとっても苦労したのです。
「切絵の苦労 in USA」の続きです。まだ見ていない方、切絵の苦労も見てください。

紙がない。ナイフがない。筆箱がない…。
と書きましたが、今回は個展の準備での苦労話です。

1998年の春、Rocklandのギャラリーが個展を開かせてくれるという事になりました。
時期は夏。RocklandはBostonの北、車で約三時間くらいにあって、海辺の避暑地です。ここには、アンドリュー・ワイエスの美術館があって、その1998年の夏に新しい館がオープンし、観光客が沢山来ています。
メインストリートにはギャラリーが幾つも並んでいる、アートの町です。といっても小さい町ですが。

個展までは3ヶ月。それから路鬼の奮戦がはじまりました。
その3ヶ月は個人的なトラブルが続いて、落ち着いて制作できた期間は実は1ヶ月位しか無かったのですが。
その中で、なんとか「早く」「いいもの」を作るのに、編み出してしまった技術などがあります。
今回は時間が無かったせいで、こだわっていた「アメリカのもので作る」という訳にはいきませんでした。日本の紙も沢山使いました。特に下絵の紙、貼るための台紙は「結局発見できなかった」と言ってしまっていいと思います。

下絵の紙は、日本ならタイプ用紙。私は法令書式用の薄紙を使っています。これはコピー用紙として使える最薄のもので、プリンタでも使えます。タイプ用紙よりは若干厚めですが、まあ満足できる薄さです。
アメリカではタイプ用紙は普通の紙を使います。日本のタイプ用紙は、間にカーボン紙をいれて何枚ものコピーを作っていた時代のなごりです。今はコピー機があるのでそんなものとっくに必要ないんだけど。

台紙にする紙は、アメリカではイラストレーションボードが最適なものとなるのでしょうが、これは1/8″つまり3.2mm位の厚みで重い。アメリカのイラストレーターは本当にこんなのに描いているのでしょうか。ケント紙はやっと近いものを見つけましたが、間に合いませんでした。

そのかわりアメリカ人がこだわるのは「Acid Free」です。上質な紙はAcid Free。要するに酸性紙じゃないってことです。
粘着テープも、ボンドもAcid Free。でないと、変色するからです。
日本の切絵の説明をしている本にはこんなことは書いてありません。当然なことは載ってないのだと勝手に決めて、何でも使うことにしました。日本で図書類から酸性紙が駆逐されたのは随分前のことですし。
(どなたか日本の紙が酸性紙かどうか、ご存知でしたら教えてください。)

失敗したことも沢山あります。

最初の失敗は糊です。
前回の「快挙」アメリカの黒い紙は色が落ちるので、水性糊は使えないことが判りました。これはCrescentというメジャーなメーカーの紙ですが、値段が安いのはこういう訳だったんですね。またこの紙は、水に滅法弱く、細い線などはすぐにちぎれてしまいます。これは途方に暮れました。
野球の選手を作っている時は、これには気がつきませんでした。理由はスプレー糊を使っていたからです。スプレー糊は小さい作品で、貼る部分(野球の選手では黒い部分)が多ければ使えますが、大きな作品では扱いが難しくなってしまって使えません。支えがなくてへろへろとくっつき合ってしまうのです。一度貼ったら剥がせないし。(後述のようにこれはデキルことになりました。でも面倒)

また、耐久性の問題もあります。紙によってはしみになってしまいます。これは、スプレーが均等にできないと起こります。糊が厚くなってしまった所は油のようなしみになるのです。ということは、時間が経つとしみになる可能性がある訳…。

でも、作品は切っちゃったし…。これで切ってしまったのは May(皐月)です。ご覧のように大きなサイズで、しかも細かい。気合も入っている作品です。

えーいっ、スプレーで貼るしかないっ。

多量の新聞紙でカバーしつつ、少しずつ貼っていくことにしました。
スプレーする裏にはクッキングペーパーをあてておきます。これはべたべたに強く、うまく剥がれてくれます。しかも安い。
今回の発明大賞はこのクッキングペーパーの使用ですね。

しかし…。貼った後で、作品にインパクトがない気がしてきました。下地を白い紙にしたからです。実際の作品は金地です。

そうです、一度剥がしてまた貼り直したのです。もう一度切っている暇はありません。
剥がすのは日本なら「シールはがし」のスプレーがあります。
これは「水性糊は剥がれないけど、化学糊は剥がれて、しみにならない」という優れもので、この特徴を生かしていろいろ便利に使っていました。しかし、アメリカでは。(逆に水性糊だけ剥がすのは「切手はがし」があります。ただしメーカーによっては紙がよれよれになります。)

幸いなことにクレヨンからシールまできれいにする、GooGoneという液体が売っていました。スプレーではありませんが。
この液体には、もう一つ使い道があります。スプレーの吹き出し口をはずして浸しておいてきれいにするのです。いつもこうして気を使っていないと、思わぬ所で失敗が待ち受けています。(何度も失敗しました…)
シールを剥がすにはもう一つ道具があって、これも日本の「シールはがし」というパレットナイフのような道具です。これがないと上手くできません。私の七つ道具の一つです。

そういうわけで、この作品はスプレー糊で一度貼って、剥がして、又貼った、という曲芸をもって完成したのです。

結局新作は23点。出品は40点+小さい作品 Rainbow Flowers 20点ということになりました。そこそこの数です。
額は古風な縁が3インチもある木枠です。木枠の額はアメリカではポピュラーで、自分で作る人も沢山居ます。しかし、このタイプのものに額装するのは初めて。ギャラリーのオーナーに教えてもらって全部自分でやりました。
作品とバックボード(いまでは日本でも発泡スチロールのものが普通)をいれ、裏から小さい金属(専用のもの。無ければ小さい釘)を打って留めていきます。日本の額なら留め金がついているのですが。更に裏側全体に紙を貼ります。これで額ごと買わなくてはならなくなります。

できた作品を壁に止めるもの日本と違っています。
日本の場合は、壁を傷めない工夫を色々します。レールにワイヤーでぶら下げたり、釘を使う場合も慎重です。
まず、Showの為に半日かけて壁を塗り替えました。(塗って二時間で乾きます)壁は漆喰です。そこへフックを釘を打ってかけます。フックが足りないと、釘を斜めに打ってしまいます。いいのかなーこんなんで。いいんだろーなー。場所が悪ければ、ぬいて打ち直す。簡単でいいなー。(それともこのギャラリーだけなんでしょうか)


文化的考察。
日本人は(自分のことを見て)技で勝負。アメリカ人は力で勝負。