時間について

Wrote by Roki 1999

何時までもつのか

紙について調べていると、和紙の保存性のよさに驚きます。千年も前のものが崩れもせず保存されている。千年って、十世紀。千年前って紙が発明されても、まだヨーロッパに伝わってない頃じゃない。人間って時の長さをどう感じているのだろう。普通に暮らしている人は、千年先の事なんて心配しないんじゃないかな。考えられてもせいぜい孫の代くらいか。百年の計を持ってる政治家はいなそうだもの。あ、でもこれって日本の感覚かも。中国人はもっと長い時の感覚を持っていそうだ。


さて、路鬼が作った切り絵はどれくらい保存出来るのでしょう。これは紙の性質、糊の性質と気候条件にかかってきます。 まず、

  • 切る紙:手漉き和紙
  • 台紙:ケント紙(ケミカルパルプ、中性紙)
  • 糊:でんぷん糊+木工用ボンド+水

これは、日本で普通に切絵を作る時に使う材料です。保存年数は当然一番寿命の短いものの年数を元に考えるべきでしょう。

和紙千年、ケント紙はもって百年、でんぷん糊は(普通に工業生産されたもの)?
木工用ボンドは約90年前に発明されたものです。材料的には百年位いけそうだけど、これに他の条件が加味されます。

  • 糊付けの状態
  • 紙の色
  • 保存場所

糊付けのやり方でその後の糊の状態はかなり変わってきます。うまく貼った場合は、でんぷん糊は紙と同じ位耐用年数があります。もちろんうまく出来なければ、数日後にはがれてしまったりするわけです。

紙の色は染料、顔料の退色と関係します。これは絵具などについてはかなり色々調べられていて、現在は退色しにくい色が使われています。もし、同じ色の絵具で値段が違っている場合は、高い絵具の方が安定だと考えてよいようです。
退色は主に紫外線と、空気中の酸素で酸化されるために起こるので、光をさけ、酸化反応が起こりにくくする注意が必要です。
美術館が薄暗く、スポットライトを使っているのは、当たる光をなるべく少なくしているからです。酸素に触れさせないというのは普通は無理ですが、むき出しのままよりケースに入れておいた方が良い訳です。また、温度が高いと反応が進むので、気温の高くなる場所は避けるのがよろしい。密封容器に入れて冷蔵庫に入れておくのは正しいんだな。

  • ほこりと空気中のいろいろなもの

恐ろしい事に、ほこりにはたくさんの有機物が含まれているそうです。アレルギーの原因になるダニやら花粉やらカビの胞子やら、食べ物のかすや動物から落ちた諸々のもの、細かくて目にみえないけれど、細かくて目にみえない生物の食料になるもの。これに、水、つまり空気中の水分が加わると、目にみえない生物が繁殖して、目にみえるほど増えてしまいます。
いくら糊に防腐剤が入っていても、黴が生えたりするのだ。湿度が高いとまずいのだ。

空気が含んでいるのは、水ばかりではない。どこに逃げてもついてまわる排気ガスや、もし近所に焼却炉があれば、そこから排出されるものは、人間や犬猫ばかりでなく、植物にも機械にも、家財道具にももちろん路鬼の作った絵にも悪影響を及ぼすのです。S0x(硫黄酸化物) NOx(酸化窒素)は毒性が強い=反応する力が強いのだ。


アメリカの大学で

アメリカの大学で、少しだけですが美術の授業を受けました。学生展に向けての講義は、額装の仕方や台紙の選び方がありました。その中で教授はさかんに「Acid Free」を強調します。酸性紙でない紙を使いなさい、ということです。
アメリカは特に 機械パルプが多いので酸性紙が多く、これは短い年月の間に変質し、色が変わったり弱くなったりします。美術館に収める絵画については、基準がさだめられていて、百年持たせるために中性紙を使わなくてはいけないそうです。

うーん、先生、私たちなんぞはそんな心配しなくてもいいんでは?
そうですね、君たちはBacking Boardに段ボールを使ってもいいですよ。マットも安いものを使ってください。

ちなみに、高いマットと安いマットは五倍も値段が違います。もちろん高い物の方が渋い色がそろっているんだけど。美術館に収める絵に使うマットは、Cotton100%の白、または無彩色ときまっているそうです。
教授の絵は幾つかの美術館に収められているので、こんな心配も教われたのでした。


私の絵はいったい何年持つんだろう

ここで路鬼の目から鱗。「自分で作る絵は、どれくらい保存出来るか、自分で考えなくちゃいけないんだー。」
…私の絵はいったい何年持つんだろう。いや、何年持たせるように作ったらいいんだろう。
もし、お気楽に雑誌の広告なんぞで作ってしまったコラージュが、とても素晴らしい作品になってしまったら、泣いていいのか笑っちゃうのか。(安い雑誌は中性紙ではなく、印刷の顔料は退色しやすいし、コーティングや添加剤も寿命を短くします)そんなこと考えて制作してるコラージュ作家はいないのかもしれないけど、考えなくちゃいけないことなのではないかなあ。


路鬼が最近使いはじめた「柿渋紙」は千年くらい平気でいきそうです。事故に遇わなければ私の命よりは確実に長い。
千年前。それから人間は、機械を作り、空を飛び、月に出かけ、原爆を作り、死なない老人を作り、死んでいくたくさんの子供を作り、生態系を壊し、毒を撒き散らしている。
もし、あと千年後まで路鬼の作った絵が生き延びたとして、一体何を見るんだろうか。地球は青いままだろうか。

これって「後の世に残る」ってことですか。うーん…。
その紙に恥じない絵を作らなくてはと思うけど、下手に長持ちしてもらっても、困ったりする。

(追記 jan.08)
山下清画伯の絵は、安い折紙なんぞを使ってるもんだから、すでに退色しきって色がなくなってるんだそうだ。
誰か注意してあげなかったのか。ホントもったない事です。